【第17話】こぼれ話
こぼれ話である。
帰国直後は、こぼれてきそうな話題がたくさんあったのだが、かれこれ3ケ月も経ってしまうと、おもしろい話はすっかり頭から消えてしまった…。
どうやら、月日とともに、どっかにこぼしてしまったようである。
しかし「こぼれ話」と予告した限りは、アップしなくてはなるまい。
うーん、あれこれ悩んでもしようが無い。食べ物の話をしましょう。
私のポリシーは「郷に入れば郷に従え」なので、基本的にはその土地の食べ物を食することにしている。
幸い、好き嫌いがないので、比較的こういう時は便利である。
(でも、いつぞやシンガポールでチャイニーズの独特の味付けが1週間続いた時は、さすがに参った。)
(海外に行くと「日本食」というものの素晴らしさを感じますね。)
でもって、アメリカの食事は比較的食べなれた味付けが多く、
「うわー、こりゃ無いわ」という食べ物には遭遇しませんでした。
しかし、アメリカにある異国料理店は「ちょっと勘違いしてるのとちゃうのん?」ってものがありました。
10日間ほどの生活ですから、たまには肉料理以外のものを、という一行の思惑もあり、デトロイトでは「中華料理店」に行きました。
すごかったね。
はっきりいって、まずい。
どのくらいまずかったか?店の写真を見ていただければわかります。
ね、店構えがまず怪しくて、そのまずさ加減がわかるでしょう。
ここの店、わざわざホテルからタクシーで20分もかかって走って行ったんですよ。
それがこれもん、着くなり「呆然」とした。
看板、お分かりになりますか? えっ?見にくい?
では、看板のアップを写真でお見せしましょう。
「北京飯店」と書いてNEW PEKINGと読むそうです。(どうやったら読めるンやぁ)
なんじゃ、この中国人の似顔絵は!そんなぼやきも思わず口をついて出てくる!
しかし、店内はほぼ満席なのである。アメリカ家族がおばあちゃんのバースディパーティを開いたりしている。
味の方は結構いけるのかも知れない…。そんな期待を、見事裏切ってくれました。(ガクッ!)
老酒を頼んだ。まるで腐ったガソリンを飲んでいるようである。(腐ったガソリンってどんなんや?)
酢豚っぽい料理や、エビチリと思われる料理が出てきた。全ての味付けが「甘〜い」か「辛ーいっ」かのどっちかである。中国四千年の歴史が可愛そうである。これで値段がおひとり50$(約5500円)である。
ええ加減にせぃ!「王将」で5500円払ったらもっとおいしい中華料理が4人前は食べられるぞ〜!
ま、そんな訳で、腹をたててばかりいてもしようがない。
おいしかった異国料理も紹介しましょう。
なんと、これが「SUSHI」なのである。L.Aはユニバーサルスタジオの近くの「すし屋」である。
ここは、ひとりでフラッと入った店です。
錦鯉の暖簾でアメリカ人が寿司をつまんでいる。あっ、そうそう店の名前は「WASABI」でした。NEW PEKINGより分かりやすい店の名前である。
あの中華料理の経験があったので、そう期待はしてなかったのですが、「こほん、寿司の食べ方はこうあるのだぞ」とアメリカ人に自慢するために入店したのであります。言わば米国における日本人の存在感をアピールして、日米安保の新しい在り方を問うために入店したのであるといっても過言ではないでしょう。
あるいは、フランス人が日本のフランス料理店で食事をしている姿を、我々日本人が「うーん、さすが本場の食べ方である」と唸るように(唸った経験あるんかい)、私の立ち振る舞いでアメリカ人を唸らせてあげようという魂胆でもありました。
店に入った。アメリカ人を唸らせるには「すたすた」と席に着かなくてはならない。アメリカみたいに入り口で係の案内を待って席に着くなんてことはしてはならない。
席に着いた。一人だが四人席に座る。遠慮して二人席に座るなんてことはしてはならない。かと言って六人席に着いてもいけない。ここらへんが微妙な日本の心である。わかるかアメリカ人たち!
さて、係の者が来た。(可愛い女性である。インド系かな?黒いスーツが似合ってる。うん、うん可愛い)なんて表情に出してはならない。これから日本文化の「寿司」を食するのである。心乱してはいけない。(それにしても可愛いっ!)
(どんな可愛いか、写真をお見せしよう。顔が映ってないが雰囲気だけどうぞ。もったいつけてるのとちがいます。こっそり撮ったので手ぶれしてるんです。)
さて、「とりあえずビール」これが正しい本格的な注文の仕方である。参ったか、アメリカ人たち!
「ビールは何にしましょう?」
おぉ、敵もさる者、いい受け答えである。
「何があるのじゃ?」「はい、アサヒと麒麟でございます。」インド系の可愛い係の女性が答える。「うん、それでは麒麟を頂こう。」「はい、かしこまりました。」
ええ感じで事は進む。(あのぉ、この会話、英語ですからね。お間違えなく。)
「あとの注文はどうするのじゃ?」そう思いメニューを眺めていると、「この紙に欲しいものチェックしてください」と、MaguroとかTamagoとか記入されているチェックリストを渡される。
この紙に数字を書き込み注文するシステムになっている。
「おーい、これ、ちょっとなんか違うでぇ。これは焼肉屋のシステムやでぇ。」と言いたいのをグッとこらえる。多少の勘違いは許してあげよう。それが日本の心である。
程なくすると、ビールが運ばれてきた。「さぁさ、どうぞ。」と可愛いインド系の女性がビールを注いでくれる…なんて事は無かった。小料理屋では無いのである。テーブルにビール瓶とコップを「ドンっ」と置いて奥に引っ込んでいった。
いかん、アメリカ人を唸らせなくてはならない。ひるんでいる場合では無い。手酌でビールを注ぐ。「見よ、これが日本男児の手酌であるぞ!」と静かにアピールする。誰も見向きはしない。うーん、困った。これでは何のために入店したのか分からない。
まもなく、寿司が運ばれてきた。大皿に私が注文した「握り寿司」が盛ってある。どうだ!これが通のメニューであるぞ。見よ、アメリカ人たち!
大皿に盛られた寿司を紹介しよう。
「かに」(ええ感じでしょ。)そして「サーモン」(俗に言うトロじゃけっていう奴ですな。)そして「はまち」(やっぱ、これだよね。)そして「カリフォルニアロール」(おーい、そんなもん頼んだんかぁ。)
とりあえず、ひと艦ずつ口にする。「ご飯がパサついている!」なんて事は無かった。おいしいのである。
かにはちょっとゆですぎだが、さすが鮭はうまい。カリフォルニアロールはたいした事無い。セブンイレブンの寿司の方がおいしい。(だから、頼むなって言うのに。)
そして、はまち。これがバカうまっ。はまちというよりブリトロって言った方がいいのかも知れないが、「はまち」って言ってるのだから仕様が無い。しかし、おいしい。
キリンビールを飲みながら「うまい!」と心で叫ぶ。しかし、感心してる場合では無い。アメリカ人を唸らせなくてはならない。
「どうして、唸らせよう?」なんて思い巡らせていると、店の入り口から出入り業者が肩にコメ袋を抱え板場の方に向かうのを目撃した。
出入り業者が担いだコメ袋には「水晶米」と日本語で書かれてあった。
「うーん、日本米か!どうりでうまいはずだ!」
唸らせるつもりが、唸ってしまった!(不覚にも)
そうこうしているうちに、ビールも寿司も空になってしまった。追加注文をしなくては。
係のインド系カワイコちゃんを呼ぶ。
「ワンモア ビアー プリーズ」そして…と、ハマチがおいしかったな、「ハマチ…」いやハマチって言っても通じないから…「ハマチ……アァ…イエローティル スシ…」って言うと、
「OK、5ダラーズ、2ピース。OK?」なんてインド系カワイコちゃんが答える。(???)
どうやら、ハマチが「How much?」に聞こえたらしい。
良くあるお笑い話だが、ホンマの話です。いやぁ、おもしろい。笑ってしまった。つられてインド系カワイコちゃんも笑った。
日米親善である。これで、新しい日米安保の道も開かれるであろう。よかった、よかった。
追加注文したビールとハマチです。
ハマチに見えないでしょ。やっぱブリかな?(ハマチの年齢が日本と米国では違うのかも知れない。日本ではブリの幼少の名がハマチだけど。)
キッコーマン醤油が初々しい。
寿司皿にワサビが盛ってあるのもおもしろい。
(もちろん、寿司の中にもワサビはあります。)
「WASABI」の店名に恥じないモノである。
すばらしい!
キッコーマン醤油の横に転がっている鉛筆は、チェックリストに書き込む為の道具です。
そんなこんなで、48$。(チップ8$込み)
ちょっと高い気もしないではないが、中華料理の50$より格段に安い!
皆さんも、アメリカ寿司を一度お試しあれ!!