vol 51.チャボロ・シュミット 日本公演      2006.10.11 at びわこホール小ホール

チャボロ・シュミット。知る人ぞ知るマヌーシュ・スウィングの伝説的ギタリストである。

「マヌーシュ・スウィング」という聴きなれない言葉だが、いわゆるジプシージャズである。
ジプシーと言う言葉は差別用語になるとかで現在は、自称の「ロマ」という言い方をされています。
ちなみに、ジプシーというのはエジプトから来た人と誤解されて呼ばれた事から来ています。
(いわゆるインディアンと同じですね。)
さらに説明すると、インドから北アフリカ経由でヨーロッパに辿り着いた芸能一族は二種類あり、ベルギー、北フランスからフランスに入国した人たちを「マヌーシュ」と呼び、スペイン、南フランスから入ってきた人たちを「ジターヌ」と呼ぶようです。
つまり、ジターヌは南から来たため熱い雰囲気を持ち、マヌーシュは暖かさを持っているとのこと。

以上、パンフから得た情報です。

ここでは、言い慣れたジプシージャズという言葉をあえて使わせていただきますが、なんと言っても有名なのはジャンゴ・ラインハルトですね。

高校生の時、てっちゃんの家のすぐ近くに怪しげな紅茶専門店があり、連れていかれたのですが、その店でかかっていた怪しげな雰囲気の音楽がジプシージャズ(多分、ジャンゴだったと思う…)を初めて聴いた体験でした。
あれから35年、今日は目の前でジプシージャズが聞けるわけです。

公演前に、メインロビーで前座演奏がありました。
Cafe Manouche with SWAN(Cafe Manouche with SWAN(カフェ・マヌーシュ with スワン)
[山本佳史(g)、川瀬眞司(g)、中村尚美(b)、SWAN(vo)])[山本佳史(g)、川瀬眞司(g)、千田哲彦(g)中村尚美(b)、SWAN(vo)]というバンドが演奏するとの事で、少し早めに会場に行きました。

写真を撮ろうとデジカメを持参したのですが、鞄から取り出すとバッテリー切れで動作せず!なんちゅう準備の悪さ!
仕方なく携帯電話で撮影しようとしたが、これも電池表示が心細くてバシバシ撮影できませんでした。(なんちゅう準備の悪さ!)


ゆえにあまりいい写真がありませんが、ご容赦いただきたい。

トップを飾る写真は、カフェ・マヌーシュ with スワンの写真です。

一番前に座って聞いておられたおじさんは、ジプシージャズのスィングに身体を寄らせてノリノリでした。
ステージの奥に人影が写っているのは、メインロビーに入りきれずフロアーで立って聴いている人たちがガラスに映っている様子です。
多分、チャボロを聴きに来た大半の人がここで前座演奏に耳を傾けていたのでしょう。

30分ばかり前座演奏を楽しみ、いよいよ開演15分前。

開場の小ホールへ向った。

小ホールは300席くらいの箱ですが、中に入って驚き!
うまい造りになっています。傾斜はなだらかで天井は高く、全て寄木細工のように壁と床が木で出来ています。
客席はシネマくらいの大きさです。

しかもステージに目を向けると、椅子が3席とアコギ用の小さなアンプが1個置いてあるだけで、マイクやPAが無い。
 
どうすんの?

開演予定時刻の19:00を10分ばかし過ぎた頃、チャボロ一行が現われた。
おもむろにバイオリンが奏で、チャボロのギターとサイドギター、そしてウッドベースが反応するように音を出した時はびっくり!

ナチュナルな楽器の音が生で客席に届いてくる。やはりPAなしである。
ステージ上の小さなアンプはチャボロのギターを他のメンバーがモニターとして聞くためのもので客席には届いていない。

私の席は前から2/3くらいの後方の席でしたが、しっかり生音が聞こえる。

びわこホール恐るべし!(笑)

ご機嫌なナンバーがMC無しで続く。
3曲目の頭にチャボロのギター3弦が切れた。
他のメンバーは演奏を続ける。
客が心配するなか、チャボロがとった行動は…。

答えは、エッセイの最後に明かすことにしましょう。

さて、チャボロ一行の演奏は素晴らしいのひと言でした。
チャボロの壮絶なテクニックはもちろんの事、ヴァイオリンのコステル・ニテスク(Costel Nitescu)の甘美な音色も絶品だった。時折指で弦をはじくフレーズがアクセントになり(しかもなんとも言えないチェンバロみたいな良い音)、全体のアンサンブルを飽きさせないものにしていた。

途中、チャボロが袖に退き、サイドギターのマヨ・ユベール(Mayo Hubert)がメインギターで2曲ほど演奏する。
チャボロの弟子らしいが、こいつを聞くだけでも価値があると思わせるテクを持っていた。

ベースのクロディウス・デユポン(Claudius Dupon)は欧州人には珍しく細身のおっさんでしたが、うまくバンドのサウンドを支えてました。

それにしてもチャボロのギターは凄い!
あの映画「僕のスィング」では一部しか手指の動きが見られなかったが、こうして2時間足らず目の前で見させてもらいました。
なんと時折、右手や左手の指が残像しか見えないくらい早い動きになるんですよね。

多分、このジプシージャズの世界ではナンバーワンですね。
しかもテクだけで心に残らないというんじゃなく、テクもあるしソウルもある!という素晴らしいギターリストでした。

途中、私が購入した最新作ルーチャのアルバムから「ホワット・ア・ディファレン」又「枯葉」などのスタンダードも織り交ぜ、後半は映画「僕のスゥイング」のテーマ曲なども演奏してくれました。大満足!

1時間半のステージが終わり、当然アンコール!
バンドで2曲応えてくれた。

しかし、客席のアンコールは止まらない。

最後はチャボロ一人が出てきてソロ演奏。
即興的な雰囲気の1曲を披露してくれた。

 

 



終演後、ホールを出ると「サイン会やります、ご希望の方はこちらにお並びくださーい」と。

やはり、そうくると思った。ちゃっかりこれを見越して開演前にCDを購入しておきました。(笑)

15分ほど待ったら、メンバーが出てきた。

右の写真は手前から、サイドギターのマヨ、ベースのクロディウス、ヴァイオリンのコステロ。

 

CDの盤にサインしてもらう方もいたが、私はジャケットにしてもらった。
このジャケットがなかなか良い。
後でお見せしますが、何気なくジャンゴの写真が飾ってあり、しかも「サインはここにしてください」と言わんばかりに、白地の空白がある。(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後にチャボロにサインしてもらって、握手。

なんか気のきいた言葉をかけたかったが、サンキューしか言えなかった。

メルシー!トレビアン!とでも言えばよかったかな?と思うも後の祭り。

映画「僕のスゥイング」で初めて知ってから3年。
こんな日が来るとは夢にも思っていなかった。

ちなみに左の写真でチャボロと握手しているのは私ではありませんので悪しからず。


チャボロ・シュミット 1954年、パリ生まれ。

私より2歳上だが、ギターのテクニックは100年経っても追いつけないと思わせた。

偉大なるギターリストを目の当たりにできた今日に感謝!

ありがとう。

 

 

 

 


さて、弦を切ってしまったチャボロがとった行動とは…。

「ありゃ切れた…」という顔をするチャボロのまわりでは、メンバーは演奏しつづける。

ここでステージ袖からスペアのギターを持ってスタッフが交換する、というのがお決まりのパターンですが、なかなかスタッフが現われない。

チャボロは切れた弦を糸巻きから引っこ抜いた。
そして、引っこ抜いた弦を両手でしごき始めた。

早く、スペアギターを持って来てやれよ、と心の中で思いながらも、ひょっとしてギターは替えたくないのでスペア弦を待っているのか?と見守っていると…。

しごいていた切れた弦の片端い結び目を作った。

まさか…!

結び目を作った(切れた)弦をブリッジに通しはじめた。
糸巻きに巻きつけ弦を張ったかと思うと同時に、バンドにあわせ演奏しながらチューニング!

そのまま何事も無かったように演奏を続けた!
客席はヤンヤの拍手!!!

なんと、切れた弦をその場で再利用したのだ。

うーん、素晴らしい。

映画「僕のスゥイング」の冒頭で、少女がそういう捨てる弦をリサイクルしてギターに張るシーンがあったが、まさしくそれが演出でなくジプシージャズでは当たり前のことのように、おこなわれて居る事にビックリ仰天してしまいました。

又そのギターで結局最後まで演奏し続けたのですから、なんとも開いた口がふさがりませんでした。

ちなみに、アンコールの時はスペアのギターに交換したので、スペアギターが準備されていなかった訳ではないのです。


何から何まで、感動させられるステージでした。

 

ジャケットにサインしてもらったのを画像でお見せします。
チャボロのサインが、自分の写真にもかからず、大切なギターにもかからず、そして敬愛するジャンゴの写真にもかからない小さなスペースに書かれているのが印象的です。

 

 

 

 

 

 VOL52.

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